共同贈与コミュニティ「新しい贈与論」は、未来の人類研究センターに対し71万円の寄付を行ないました。
新しい贈与論では毎月会員の投票により決定される寄付である共同贈与を行なっています。2022年1月は「生活」をテーマに推薦を募集し、特定非営利活動法人LIFE、未来の人類研究センター、日本臨床睡眠医学会の3候補があがり、阿曽祐子さん、広井健一郎さんの推薦した未来の人類研究センターが最多票を得ました。
推薦文は以下の通りです。
私たちは『未来の人類研究センター』を推薦します。
https://www.fhrc.ila.titech.ac.jp/project/■1.「生活」とは「生き返り」
「生活」と聞くと、まず「日常生活」や「最低限の生活を保障する」というイメージが立ちあがる。この捉え方から脱して、改めて「生活」を考えてみたかった。国語辞典を開くと、「生きていること。生物がこの世に存在していること」とある。生活は生命(いのち)そのものなのだということを再認識した。続いて「人が世の中で暮らしを立てること。暮らし」。辞書をいくつか渉猟して、仏教語大辞典に辿り着いた。「生活[しょうかつ]=生き返ること、蘇生」。推薦人それぞれに「生き返り」という言葉にハッとした。
〇推薦人A
「生き返り」は、自分が今この「新しい贈与論」に参加しているきっかけを思い起こさせる言葉である。
周りの人との深い関わりに苦手意識を持つようになった高校時代、部活では、プレーの上手さがチームでの発言権に繋がっていた。チームメンバーの意識が自分の活躍のみに向いていた。チーム全体での信頼関係が築きづらかった。
打って変わって、大学時代のサークルでは、分け隔てなく協力しあう信頼関係があった。自分のことだけを考えるメンバーがおらず、勝利という共通の目標に向かえた。自分自身も、チームが良くなることだけを目的に行動していたら、それが巡り巡って自分自身への信頼として返ってきた。
この体験は、私にとっては、生き返るようなものだった。その後の人生の選択にも影響する大きな出来事となっている。今の自分が、「楽しい」「やりがいがある」と思えるのは、自分の選択に加えて、出会いや環境の偶然によるものと思うようになった。
そして、今、自分がもらってきたものは、世の中に返したいと強く思っている。だからここに参加しているのだ。〇推薦人B
「生き返り」という言葉を見て、自分の人生が走馬灯のように蘇った。
「私は何のために生まれたのか」。社会人になって数年後、そんなことばかり考えていた。何をやっても意味が見出せない。周りは、悩みもなさそうな呑気面ばかり。「残りの長い人生をどう生きていけばいいのか?」かと溜息ばかりついていた。
そんな鬱々とした日々からの脱出は不意にやってきた。それはお節介で放任な他者との出会いからだった。「生きているだけでもうけもん」「自分に起こっていることは自分に必要なこと」「人に差し出さないと何も還ってこない。人が先」。彼らが言葉を実践する姿が私を打った。
自分の内への探索から外の世界に目を凝らす。誰もがちっぽけな存在であることを感じながら、必死で生き抜こうとしているのだった。周囲の人と自分の間に潜む共通項を見つけて繋がってみることが面白くなった。互いに繋がることで人は少し強くなれる。変わっていくことができるのだ。■2.未来の人類研究センターの「利他プロジェクト」
理工系の東京工業大学に設置された未来の人類研究センターは、人文社会系の性質も備えている。「利他」を最初のテーマに掲げて「利他プロジェクト」という活動に取り組んでいる。分野を超えて「利他」についての対話を重ね、書籍・ウェブ記事に留まらず、ラジオやシンポジウムも含む多様な発信をしている。
■2-1.「利他プロジェクト」の考える「利他」
「利他」という言葉に、危うさを感じたことはないだろうか。
企業は「SDGs」や「社会貢献」を銘打つ。環境への優しさの標榜、プロスポーツへの支援、自治体へコロナ支援・マスク寄付。こんなときに交わされるのは「わが社にどんなメリットがあるのか?」という会話。
自分を振り返ると、「誰かのために」を口実に自分の行動を正当化したという経験はないだろうか。周りを見て「〇〇のために」と言いながら、結局自分のために行動しているとしか思えないことはないだろうか。未来の人類研究センターのセンター長であり、障害者と関わることの多い伊藤亜紗さんは、次のように語っている。
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障害者の周りにはさまざまな「利他的」な行為が行われているが、一見「利他的」な行為が本人のためになっていない、ということがたくさんある。障害を持っている人に対して周囲の人が良かれと先回りしてお世話をする。ときに、本人の挑戦する気持ちを削いでしまったり、自分でできるという自己肯定感を失わせたり、時間がかかっても自分で世界を感じたい、自力で外に出て冒険したいという気持ちを削いでしまう。結果的に、障害者という役回りを演じ続けねばとすら感じることもある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー上記の通り、表出される「利他」の構造を分析したうえで、次のように「利他」を定義している。
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一般には「利他」というのは、自分から能動的に「善行をしよう」ということとして考えられがちだが、そうではない。
自分の前にいるこの人は、自分には見えていない側面を持っているんだという敬意を感じながら人と接していくこと。本当の意味の「利他」は、このように自分の中に「スペース・余白をもつ」ことをしながら目の前の人の可能性を引き出し、それに合わせて自分も変わっていくことではないか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー別の場では、こんなふうにも語っている。
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目の前で倒れた人を助けようとする不意の行為、こうしたものに「利他」が宿っているのではないか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーその瞬間、その場で、目の前の相手との間に発生した役割、それを瞬時に察知して衝動的に動くこと。これは、計画された「よかれ」でもなく、準備を重ねた善意でもない。
このような不意の「利他」は、与えられた相手も、受け取りやすい。なぜなら、拒否は自分の危機につながるからだ。受け取らざるをえない。また、自分も逆の立場にいたなら、必ず同じことをするであろうと想像できるから。不意の「利他」は、与える側・与えられる側という境界すらも超えていくのである。
■2ー2.「利他プロジェクト」から注目したフレーズ
ここで、未来の人類研究センターのホームページから、推薦人2人の心に響いたフレーズと私たちの感想を紹介したい。
〇いろんな人との関わりの中で いろんなものを受け取って自分ができている(木内久美子)
・・・周囲からもらうことで自分が存在している。
今度は、返す側になっていきたい。〇相手から来たものにどう反応するかによって何かが生まれる(中島岳志)
・・・他者があって自分ができているのだ。〇人間にしかできない創造とは「評価値の低いものの先」を探ること(羽生善治)
・・・計算だけでは見つからない大切なものがある。
まだ形になっていない可能性を信じられるのが人間。〇利他を「利他」と呼んだ瞬間に利他がこぼれていく(中島岳志)
・・・意識した瞬間に利他でなくなる。認めたくないけど本当のことでは。〇「膜」は、分かれているんだけどつながっている、とても不思議なもの(伊藤亜紗)
・・・「私」という囲いを持ちながらも他者との繋がりの中でしか生きて
いけないのが人間。「私」という境目は、守るためではなく、
繋がるためにあるのかも。〇自分は器で、何かを媒介するもの。私という存在自体が贈与されたもの(中島岳志)
・・・自分がもらっては返す存在そのもの。
周囲と自分の間にはもともと「何か」があって、見出されるの
を待っているのではないか。私たち推薦人2人が他者によって「生き返り」を果たしたこと、これは他者からの「利他」を受けたということだったのだ。
■3.未来の人類研究センターを寄付先に推薦する理由
「利他プロジェクト」は、困っている人や現実の問題を直接的に救える活動ではない。が、「利他」を考えることは、人間を考えることであり、「私」を考えることでもある。更に、言葉、身体を考えることでもある。
東工大にある本センターだからこそ、この捉えどころのないテーマに、理工系・人文社会系の双方の視点を取り入れて、新しい視点を探求していくアプローチが可能である。どのような創発が生まれるのだろうか。
即効性を脇に置いて、人類の在り方について長い目線で考える活動は、社会への種蒔きとも言える。「新しい贈与論」も同じだ。両活動は、親和性が高い。■3ー1.「未来の人類研究センター」と「新しい贈与論」のコラボ提案
不意の行為に「利他」の本質があるとしたら、「新しい贈与論」はどのように考えられるだろうか。
「不意=思いがけないこと、意外なこと」。利他性は、意図していないこと、思ってもみなかったことのなかにある。
毎回思ってもみなかった寄付先が提示され、自分の数寄、好奇心、共鳴に従って選ぶ。ときに、自分が投票していない団体に寄付することもある。「新しい贈与論」の活動は、思いがけなさに溢れているのだ。また、共同贈与は、個々の名前が表出するものではない。「新しい贈与論」に託して、表出されない寄付という活動の仕方も「利他」に通じるものがあると言えないか。
相手と自分の可能性を引き出すのが「利他」であるなら、「新しい贈与論」でも、寄付する側も寄付される側という境界を超えて、両者の可能性を広げているはずである。
私たちは「新しい贈与論」と「利他プロジェクト」による会談を実現し、以下のテーマで対話をしたい。
・利他とは何か?寄付と利他の接点から考えてみたい。
・寄付する側も寄付される側の可能性が引き出される寄付とは?寄付を通して人と社会と繋がっていく、寄付を通して人と社会の可能性が広がっていく。そんな捉え方を発信していきたい。
参考:「多様性と利他」(視点・論点)東京工業大学 准教授 伊藤 亜紗
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/443072.html
投票にあたり会員よりあがった理由の一部を抜粋し紹介いたします。
学生時代から今の仕事に至るまで比較的「理屈」が重視される環境にいた自分にとって、気づいたら「生活」までもがあらゆる予定や消費活動を意図的に考えて実行するものになっていました。しかしある時それが行き過ぎ、バーンアウトの形ですべてが止まるという経験をし、生活における余白の重要性を痛感しました。
思いがけなさや偶発性を取り戻す、ということは、ますます情報過多になる現代において困難さを増していると思います。「利他」という切り口からそれを取り戻そうとしている本プロジェクトを、第1希望としたいと思います。(上西雄太)
利他をここまで分析しているのが面白いと感じた。利他という言葉すらなくなるような、そんな世の中になることを願って。(前田健志)
あらゆることが評価社会、数値、利益、自己責任といったものに飲み込まれていく今の社会において「利他」というテーマにこれほど真剣に向き合っている団体があることに驚きました。成人してから、ずっと絶望の時代だと思って生きてきた自分にとって絶望の中にある数少ない希望のように感じました。(中西晶大)
「未来の人類」は、学問的で、過去の民芸運動のように真のくらしに切り込めるのかとの疑問が湧きましたが、おそらく「未来の人類」のように利他をアカデミックに学問体系にしていく取組みは、エコノミクスや科学に偏重した学問体系に対するイノベーションであり、今後「LIFE」のような取組みがより高品質/高頻度で発生するための将来の布石たりうると考えたため、今回新しい贈与論が寄付するならば「未来の人類」が良いと思いました。(金均)
利他は対象を救うだけではなくて、己に返ってくるものであると考えているため。(白川みちる)
個人的に好きな類の内容だったからです。私的には「利他」というよりは「利世界(利他だけでなく自分を含む意味 ※造語)」の方が好きなのですが、利他も面白いのでこちらに投票します。(Sho T)
今回は3件とも具体的で即効性のあるイシューを取り扱う団体というよりは、取扱うテーマがもう一段抽象的に思われました。その中で未来の人類研究センターを選んだのは、新しい贈与論でも話題となるテーマである「利他」が深耕できそうという理由からです。利とはなにか、他とはなにか、その境界はなにか、興味深いテーマだと思います。(河原塚有希彦)
未来の人類研究センターはHPの「理工系大学の中で生まれる人文社会系の知」という言葉でジャケ買いです。理系出身者の人文知への敬意を込めて1位としました。(本間盛行)
最近偶然「思いがけず利他」を読んでいたところでもあり、この活動に大変共感したので応援したい。(太田睦)
「生き返り」という解釈に惹かれたのと、人類学徒の端くれとして推薦団体に興味を持ちました。(中村タカ)
「自分がもらってきたものは、世の中に返したい」「鬱々とした日々からの脱出は(…)他者との出会いからだった」推薦人お二人のことばと、推薦先の団体とが重なりました。胡散臭く言われやすい「利他」というもののイメージを、アップデートしていってほしいと思い投票します。(桂大介)
「お金を受け取ったら、これまでの活動に輪をかけて面白くなりそう」という軸で投票いたしました。日本において大学のいち機関というものは、寄付先としてそこまで存在感が強くないように感じます。実際、大学の財源の中で取り決められた予算の中で活動することが多いのではないでしょうか。外部企業の協賛などあれば話は別かもしれませんが、HPを見る限りそのような素振りもありません。活動自体もWEB記事の執筆といったような先行投資が必要な研究の類は確認できませんでした。そのような機関が寄付を受け取ったらどのように遣うのか気になるという興味が勝りました。(中村祥眼)
新しい贈与論は今後も共同贈与という形の寄付を毎月続けて参ります。現在は新規会員も募集中ですので、ご興味ある方はトップページよりご確認ください。
運営
法人名 一般社団法人新しい贈与論
代表理事 桂大介
設立 2019年8月1日
ウェブサイト https://theory.gift
連絡先 info@theory.gift
メディアキット ダウンロード
「新しい贈与論」は寄付や贈与についてみなで学び、実践してゆくコミュニティです。オンラインの交流をベースに、時折イベントや勉強会を開催します。個人主義や交換経済が蔓延り、人間や人間的関係がますます痩せ細ってゆく現代において、今一度、贈与という観点から社会について考え行動する場をつくりたいと思います。