共同贈与コミュニティ「新しい贈与論」は、原田正治さんが共同代表を務める任意団体Inter7に対し67万円の寄付を行ないました。
新しい贈与論では毎月会員の投票により決定される寄付である共同贈与を行なっています。2022年2月は「事故」をテーマに推薦を募集し、任意団体Inter7、NPO法人日本スペースガード協会、一般財団法人あしなが育英会の3候補があがり、嶋田康平さん、吉見新さんの推薦した任意団体Inter7が最多票を得ました。
推薦文は以下の通りです。
私たちは、犯罪被害者と加害者が対話できる場を作る取り組みを行っている原田正治さんと、原田さんが昨年11月に立ち上げた任意団体「犯罪に巻き込まれた人々の支援(仮称)」を推薦します。
「事故」ということばから、まず最初に「偶発性」や「誤配」を連想しました。
そこから、「それでも、生きてゆく」というドラマを思い出しました。14歳の少年が7歳の少女を殺す事件から15年後、殺された少女の兄と、加害者少年の妹のふとした出会いから、事件と向き合うことになる被害者家族と加害者家族の姿を描いています。終盤、被害者の母親が加害者の母親にこう言います。
「私たちは被害者家族と加害者家族だけど、同じ乗り物に乗っていて、一生降りることはできない。じゃあ、行き先は、一緒に考えないと。」
被害者と加害者は一見違う世界に二分されていますが、「ふとしたきっかけ」で対話を始めると感情が溶けだしたり、世界がつながることもあるのではないかと思います。とても難しいテーマですが、贈与論の皆さんの意見も聞きたいという思いから、原田さんとその活動を推薦します。
原田正治さんは、弟を殺された被害者遺族です。
1983年、原田さんの弟(当時30歳)は保険金目的で雇い主に殺されます。事件から10年後、死刑囚となった加害者と面会すると、加害者は「申し訳ありません」と繰り返します。4回、計80分の面会を重ねるうち、原田さんの中に「気持ちが溶け出す」感覚があったといいます。絶対に許せない。でもどうして弟を殺したのかを加害者から直接聞きたい。原田さんは、死刑執行停止を求める上申書を出しましたが、2001年12月、刑が執行されます。
もっともっと話がしたかった、加害者の葬儀に出席した原田さんはそう言います。
「残ったのは、なぜ殺されたのかこれ以上なにもわからない、そして誰も助けてくれないという空しさだけでした。」
本人たちが望めば被害者と加害者が対話することを認めてもいいのではないか。死刑の執行から20年となる2021年、原田さんは加害者支援団体の代表や被害者遺族ら7人で団体を立ち上げました。
なお、原田さんたちが立ち上げた任意団体の詳細は見つかりませんでした。そのため、原田さん個人を通じて、この任意団体の取り組みを支援することを考えています。
(団体について)「加害者側も一緒に支えたい」 事件遺族らが支援団体立ち上げ
https://www.asahi.com/articles/ASPDG6RQJPDGUTIL01Z.html
投票にあたり会員よりあがった理由の一部を抜粋し紹介いたします。
月並みですが、原体験を持つ方を応援したいという感情が湧き上がりました。(武井浩三)
原田さんの活動、まさに「本人たちが望めば被害者と加害者が対話することを認めてもいいのではないか」に同意しました。支持したいです!(太田睦)
被害者と加害者の分断はとても関心のあるテーマです。対話をすることで何か変わることがあるかもしれないと思います。ミャンマーも、対立が続いて全く対話ができない状態にあります。対話をしようと呼びかけることさえもできない状況です。リンクするところがあるなと思って選びました。(鈴木亜香里)
『被害に遭わないために』身を守る方法はよくみます。でも『加害を減らすために』。そのことは触れられていません。「気持ちが溶け出す」対話の場が、『加害を減らす』そして『失くす』ことの希望になると感じて原田さんの案に投票します。(宮崎あおな)
犯罪の因はどこにあるのか?加害者だけにあるのだろうか?事件を報道するニュースを見るたび、犯罪者という報道を聞くたびに思う。犯罪を犯した人に起きていたことを誰が真に理解できるのだろうか。自分も同じ状況に置かれたら、私は違う選択肢を選べるのだろうか。行動の裏には意志があり、自分で選択して行動を決定している、だから如何なる行動もその人の責任である。私たちが馴染んできた価値観だ。犯罪という行動の裏にどんな悲しさ、悔しさ、酷さがあったのかなんて知ったことはない。それでいいのか。原田さんが察知した犯罪者の中の何か、そこには加害者ー被害者という分け方を超えていくものがあったのだと思う。この活動を応援したいです。(阿曽祐子)
原田さまのご活動に感服致します。不慮な事故や理由を見出すのが難しいような事件で被害や苦痛を被った方が「安らぎ」につながる歓びこそ寄付の醍醐味であってほしいという、勝手な願いを込めて投票致しました。(松木耕)
犯罪被害者と加害者が対話できる場を作るという、一見違和感を覚える構図が。被害者側から出てきたことに意味があるような気がしております。(海野慧)
どの候補先もユニークかつ大事な取り組みをされていたので悩みましたが、リンク先にある
> 長谷川君も被害者の私も、例えるなら「崖の下」にいる。遺族の気持ちを考えれば死刑に賛成だという声は「崖の上」から投げかけられた言葉に聞こえ、「被害者と加害者は崖の下でわめいたり叫んだりしていればいい」と言われているように感じるのです。
この文を読んで、被害者と加害者がじっくりと時間をかけて話し合い、周囲がそれを温かく見守る仕組みを作ることの大切さに共感しました。団体の詳細はまだ不明とのことでしたが、今回の贈与がきっかけにその活動の支えになってくれればと思いました。(荒川陸)
被害者側と加害者側という二分構造ではなく、同じ事件に影響を受けた者同士として対話の機会を持つ、という原田さん達が立ち上げられた任意団体の姿勢にとても共感します。加害者が罰せられても、死刑になっても被害者やその家族の痛みは減らないでしょう。原田さんのご体験がそれを教えてくれていると思います。
「スピリットベアにふれた島」という本に、「サークル・ジャスティス」という司法制度が出てきます。被害者、加害者、双方の家族、関係者、地域住民、司法担当者などが一堂に会し、それぞれが平等に発言の機会を与えられた上で事件を検証し、加害者への処罰を決めるだけでなく、加害者、被害者双方の救済をめざす制度で北アメリカ先住民の伝統にもとづくものだそうです。南太平洋の島々でも同様の風習があると聞いたこともあります。
人間の心の傷や痛みは、人との心の繋がりでしか癒しえない。起こってしまった事件・事故・失った命は戻せませんが、影響を受けた周りの人たちの回復を支えるのは、自分の気持ちを伝えることだったり、疑問を解明することだったり、相手のことを知れることなどの交流なのだと思います。日本の死刑制度はその機会を奪っているとかねてから思っていたので、原田さん達が立ち上げられた団体の活動が世に知られ、変化につながることへの期待を込めて投票します。(浅井美絵)
いつも通り資本が集まりづらそうなものから選びました。(中村タカ)
参考記事にある原田さんが述べられた言葉の一つ一つが、とても心に残りました。原田さんたちが目指すことは、理解を得づらく困難な道だと思いますが、「崖の上」から言葉を投げるままにならず、少しでも心を寄せたいという想いを込めて、票を投じたいと思います。(広井健一郎)
原田さんの活動や背負った物語にも心を動かされました。加害と被害が同じ乗り物にのったひとつの出来事だというのはまったくそのとおりですよね。被害者やその遺族の悲しみ・苦しみの癒やしには、自分たちが背負ってしまった物語の編み直しがカギになるはずで、ある意味では加害者とともに作っていくような側面があると思います。「許せないから直ちに死刑にしてくれ」という被害者遺族も当然少なくないと思いますが、被害者救済の仕方にも一定の多様性を認める制度のあり方はたしかに望ましいと感じます。(森康臣)
今回推薦文に記載された死刑制度、不思議に思っておりました。(廃止する国もあるものの、)引き続き各国で採用されている一方で、死刑執行することによるベネフィットが明確ではなく、なぜするのかが国民に丁寧に説明されていないように思います。被害者および残された方の心が晴れる効果があるのかな、とおぼろげに想像していたものの、原田氏の例ではそうではない。むしろ本件のように、対話を通じ、その事件が記憶され消化されることが大事なように思いました。(河原塚有希彦)
原田正治さんが行なった加害者と被害者との間の対話についての記事を拝見し、このような圧倒的な隔たりのある立場の人々による対話が、多様な私たちが生きている社会が知らずに失っていることに気づかせてくれる重要なものであると感じ、より社会として広く考えていきたいことであると考えたため投票いたしました。(古川哲)
想像し難い状況で、それでも対話を諦めない原田氏の姿勢に、感銘を受けました。一人ひとりの複雑な気持ちに向き合い、支えることを諦めたくないと思います。(姜花瑛)
被害者と加害者の対話によって、「怒りや恨みしか感じないのでは?」と思われるような近しい人の死に対して、遺された人の中での捉え方に大きな変化が起きる、という事象がとても響いた為、第一希望に推薦します。(志賀響子)
新しい贈与論が一定の規模と知名度を得た今、贈与論と縁があった団体や個人の方に新しい光が当たること願って選びました。(吉見新)
以前に本を読んだことがあったので、そのご縁もあって決めました。被害を被った事件や事故に対して説明してもらうこと、対話をすることは、事件や事故を受け入れるための大切な手段の一つだと思います。(桂大介)
今回の推薦団体を、事故自体に向きあう / 事故を未然に防ぐ / 事故による欠落を補修する、と、敢えて抽象化して考えてみたとき、今の自分の気持ちに最も近いものが「事故自体に向きあう」でした。被害者支援と加害者支援の片方を担う団体はおそらく他にも多くあり、それぞれに重要なことですが、双方の「対話」はおそらく最も難しく、同時に、その方法でしか解決(解消)し得ない痛みがあるのだろうと思います。推薦人の方の言葉にも惹かれ、原田正治様と該当の支援団体を第一希望として投票いたします。(加藤めぐみ)
新しい贈与論は今後も共同贈与という形の寄付を毎月続けて参ります。現在は新規会員も募集中ですので、ご興味ある方はトップページよりご確認ください。
運営
法人名 一般社団法人新しい贈与論
代表理事 桂大介
設立 2019年8月1日
ウェブサイト https://theory.gift
連絡先 info@theory.gift
メディアキット ダウンロード
「新しい贈与論」は寄付や贈与についてみなで学び、実践してゆくコミュニティです。オンラインの交流をベースに、時折イベントや勉強会を開催します。個人主義や交換経済が蔓延り、人間や人間的関係がますます痩せ細ってゆく現代において、今一度、贈与という観点から社会について考え行動する場をつくりたいと思います。