新しい贈与論は、特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構に万円の寄付を行ないました。
新しい贈与論では毎月会員の投票により宛先を決定する共同贈与を行なっています。今月は「フェティッシュ」をテーマに推薦を募集し、「特定非営利活動法人 HUB&LABO Yakushima」「特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構」「NPO法人防衛技術博物館を創る会」の3候補があがり、瀬田祐佳・繋奏太郎の推薦した特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構が最多表を得ました。
推薦文は以下の通りです。
アニメや特撮という文化は、完成された作品だけではなく、その裏側にある"つくられていく過程"そのものに大きな魅力があると感じています。セル画一枚一枚に込められた線の揺らぎ、夜を徹して作られる特撮のジオラマやミニチュア、爆破一瞬のためだけに積み上げられる細密なセット…。そこには、作り手たちの執念にも似た熱量があります。私たち受け手もまた、その細部に目を凝らし、語り合い、何度も繰り返し観る。その行為そのものが"フェティッシュ"であり、この文化が長く愛され続ける理由なのだと思います。
アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)は、そうした制作の痕跡を未来に残す活動を続けている団体です。エヴァンゲリオン、ウルトラマン、ゴジラ、宇宙戦艦ヤマト――日本を代表する作品たちの原画や資料、セット、台本など、普段なかなか目に触れることのない貴重な制作物を一つひとつ丁寧に収集・保存しています。ATACの活動がなければ、きっと静かに失われていくはずだった数々の"創作の痕跡"が、ここでは守り継がれているのです。
作品が世代を超えてリメイクされたり、新たな解釈が生まれたりするたびに、その裏側の資料もまた新たな意味を帯びていきます。作り手の手を離れた後も、時代ごとの受け手の解釈によって再び"魔術"がかけ直される――まさにアーカイブという営み自体が、創作と受容の往復を生み続けているのだと感じます。
今、アニメや特撮の世界はより多様で細分化され、誰もが知る「共通の作品」が少なくなりつつあります。だからこそ、こうした"裏側の痕跡"を丁寧に保存し、未来の誰かに受け渡していく意義は、むしろこれからますます大きくなっていくのだと思います。限られた体制の中で静かに、でも着実に積み重ねられているATACの活動を、強く推薦いたします。
投票にあたり会員よりあがった理由の一部を抜粋し紹介いたします。
アニメや特撮といった素晴らしい文化、そのものを残すだけではなくて、その中間制作物も保存していく、保存についての研究もされているようで、魅力的な取り組みだと思いました。(Michiru Shirakawa)
現在の取り組みは、MLAの中ではアーカイブ(ズ)というよりもライブラリーかミュージアム的であるように感じましたが、一方でMLAの三種を包摂する営みとなるような萌芽性も感じました。製作委員会方式を取ることが多い分野では組織内アーカイブズにおける記録の蓄積に原理的な難しさもあり、このような取り組みには大きな意義があると思います。(佐々木優)
さーすがにアニメ好きなのでこれ一択でした。(三上遼)
物事は単なるフェティッシュというよりファクティッシュ(factとfetishの掛け合わせの造語)として物的事実の物神化を崇拝して暮らしに結びついている。りんごのモチーフが絵画やデザイン、神話で繰り返されるように、怪獣があらゆる形で人びとを脅かし、ヒーローがどんな性格であれ人びとを魅了させるように。私たちは特撮を固定的なロマンやヒロイズムとして象るだけでなく、特撮そのもの自体とそれを生み出す過程、巨匠たちの創作を特異化して残し、継いでいくことも必要かもしれない。そうした敬意を私は表したい。(土田亮)
物語の伝播や継承とは贈与の拡がりやバトンリレーで、その中でも映像作品というものは、とても効率的なフォーマットだと考えています。そして特撮や手描きアニメという技術が伝統工芸化したとしても、先人達の情熱や工夫の記録というものが、次世代の革新や創作への刺激になると思います。世の中を優しく愉快にするような物語が今後も創られていくことを願って、ATACを第一希望とします。(小澤啓一)
最終成果物だけでなく中間成果物を共有することが、文化の醸成に寄与するというのは、僕にとってはオープンソースソフトウェアの文化として身近に感じます。僕自身も、ソフトウェアへのフェティッシュを通してエネルギーを長年もらってきたので、そうしたエネルギーの循環を作るアーカイブ活動は、アニメ特撮分野でも応援したいです。(中村雅之)
以前、アニメ特撮アーカイブ機構のイベントに行ったことがあり、アーカイブ活動の展示を見ました。ロボットアニメ、ウルトラマンなどで育った世代としては、応援したくなってしまいます。(山田泰久)
特撮好きだから!!!!!(七條晶子)
残す意味があるフェティッシュという意味で、ATACを選びました。(渡辺健堂)
アーカイブをしてゆく眼差しにこそ、フェティシズムが生まれると思っています。文化・感性・創造性の再帰に寄付をしたいと思い、選ばせていただきました。(榎本大貴)
推薦人です!(繋奏太郎)
「収集」行為はフェティシズムですよね。最初、アニメや特撮関係を集めてる人はたくさんいるだろうから、そこにあえてNPO法人が乗り出す必要があるのだろうかと思ってました。
片田珠美(2015)によれば、男性は、フロイトが言うところの「いつか去勢されてしまうのではないかという不安」への防衛手段として、「じぶんのシンボルの代替物」を「収集」するのだそうです。
いっぽう、女性が集めるのは、洋服、アクセサリー、靴、バッグなど、あくまで自分で身につけるもの。
そうすると、アニメや特撮などの「収集物」は、「男性自身のシンボル」なので、今後一般に開放されるよりも、収集家とともに消えていく運命にあるのでしょう。
なので、アニメ特撮アーカイブ機構のような組織がほんとうに必要なのだと納得しました。今回はここを推します。(藤岡達也)歳を重ねるごとに、モノや人への執着から開放されて、どんどん生きやすくなっていく一方で、何かにとことんこだわる人たちを見ると、なんだか負けてるきもちになります。ひと言でNPOと言っても、ホントいろいろですね...ということを改めて感じる投票でした。(吉見新)
紹介文を読んで惹かれた順です。そして執念と細部には神が宿っている気がしております。(萩原大地)
“最もフィジカルで、
最もプリミティブで、
そして最もフェティッシュなやり方で
いかさせていただきます“
ハリソン山中
「フェティッシュ」の語源である「フェティソ」は、ラテン語から作られた造語です。
ポルトガルの商人がアフリカの人々と交流したとき、西洋人が“ガラクタ“と呼ぶ品物に、アフリカの人々がすすんで黄金を手放すのを見て驚きあきれて“フェティッシュだな“と呼んだのが始まりです。彼らがいったい何を大事にしているのか理解が出来なくて、その理解の出来なさを、とりあえず“フェティッシュ“とまとめて呼んだのです。
ですからフェティシズムは、むしろ商品・貨幣を崇拝する側から「発見」されています。それはいろいろと形を変えて、ときにハリソンのように、自分よがりな暴力すら呼び込んできました。
わたしは“フェティッシュ“について考えるとき、むしろアフリカの人々が黄金を払うそれを「守るべきニッチな奇行」ではなく、「当たり前のこと」である、という視点を失ってはならないと思います。
「不思議なものにまず驚く」こと、この気持ちがフェティッシュの根源ではないでしょうか。
三者はいずれも「不思議」の痕跡を後世に遺そうとする活動であると思いました。
しかし、不思議が形を変えて他の人に伝播するという点で、ATACが遺そうとする宝は抜きん出ていると思います。(前田浩史)美術展などに行った際、制作者のメモをみて全然わかんないなと思ったり、企画段階の資料を見てなるほどと思ったりする時間が好きです。作品以外のそういったかけらを残し続けることの大変さへ思いを馳せつつ、誰の偏愛が何を後世に残すのかを楽しみに見守りたい気持ちで1票を投じます。(立花香澄)
今の特撮やアニメがあるのは完全にこれまでの積み上げでしかなく、それが映像しか残っていないというのは大きな損失です。庵野監督がシンシリーズでコンテンツに命を再度宿すのと並行して、過去の偉大な形ある物を残すこと両輪での継承を行ったのではないかと妄想しました。(鈴木健人)
アーカイブをどのように繋いでいくか、というのは創作のあらゆる分野で生じる課題だと思います。あらゆるものの見え方や意味が移り変わる世の中において、時代を超えて意味をおびる作品や再発見の機会があって欲しいし、その可能性が続く事を後押ししたいので選ばせて頂きました。(東原大輔)
今回は、現在の自分視点で、直感的に惹かれた順に投票してみました。(村山莉咲)
好きならそれでいいじゃないかー!ということを肯定したい気持ちと、団体としてある程度まとまった大きさの意見になることの懸念で迷いました。フェティッシュというテーマの難しさもあるのか、いつもの投票とは違う頭を使いました。ディスる気持ちは全くないのですが初めて、3択であることを制約のように感じました。(いつもは、私の発想を柔らかく拡張してくれてありがとう…と思う、)(綿貫美紀)
アニメや特撮は近年ようやく市民権を得て(こういう言い方が正しいのかわかりませんが)、誰もが楽しめるものになりました。そして科学技術の進歩で、特撮やアニメの表現は豊かになりました。
一方、昔、何かの本で読んだのですが技術の発達に伴ってピアノの録音技術の大半は失われてしまったそうです。
制限されていた中でしか表現できなかったこと、そこに込められた意味がきっとあるはず。
それらを残していくことが文化を育てていくことになるのではないかと思いますので、特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構を推薦いたします。(菅野恒在)映画やアニメなど映像として完成したものは様々な形でアーカイブされると思いますが、
ジオラマやミニチュア、原画など、創作の過程で消費されるものをあえて残していくことが、未来の豊かな創作世界を生むと思います。今回の寄付が、その一助になると良いなと思い選びました。(漢那宗泰)完成した作品ではなく過程を残すこと、保存のノウハウを追求するという点にフェティッシュを感じました。残すことの文化的意義も皆さんの議論の中で感じたので、投票します!(古賀翔子)
個人的にアニメが好きだから、というのが大きな理由です。昔のようにアニメに対する偏見や差別が大きかった時代であれば、このように好きなこと=フェティッシュとして言うことは難しかっただろうと思います。そのような歴史の荒波を歩んできた痕跡を称えるためにも、一位投票させていただきます。(中川瞬希)
『完成品ではなく、“つくられていく過程”へのまなざし』その視点自体が、まさにフェティッシュの核心であり、裏側の痕跡に込められた熱量と執念。それを丁寧に掬い取り、未来の“まだ見ぬ誰か”へ手渡していく営み。ATACの活動は、まさに創作と受容の往復であり、過去から未来への『文化的贈与』であると感じました。
【誰もが知っている共通の作品】が少なくなりつつある今だからこそ、共有できる文化的記憶を、どう継承していくのか、その問いに真正面からATACの活動は応えてくださるのではないかと、アニメ特撮を通して平和も含めた意図も含め後世に残せたら・・・と想いも込めて☆彡(せたゆうか)アニメがそのうち人の手で作るものじゃなくなると考えたとき、残さなければと思ったアニメ好きです🙇(鈴木瞳)
新しい贈与論は今後も共同贈与という形の寄付を毎月続けて参ります。ご興味のある方はぜひご参加ください。
運営
法人名 一般社団法人新しい贈与論
代表理事 桂大介
設立 2019年8月1日
ウェブサイト https://theory.gift
連絡先 info@theory.gift
メディアキット ダウンロード
「新しい贈与論」は寄付や贈与についてみなで学び、実践してゆくコミュニティです。オンラインの交流をベースに、時折イベントや勉強会を開催します。個人主義や交換経済が蔓延り、人間や人間的関係がますます痩せ細ってゆく現代において、今一度、贈与という観点から社会について考え行動する場をつくりたいと思います。