原爆の図保存基金へ寄付を行ないました

新しい贈与論は、原爆の図保存基金(公益財団法人原爆の図丸木美術館)に80万円の寄付を行ないました。

原爆の図保存基金 | 公益財団法人原爆の図丸木美術館

『原爆の図』は、近年ますます歴史的、社会的意味が大きくなっており、将来的には人類共通の財産と認められる可能性もあります。しかし丸木美術館では、建物の老朽化にともない、虫食いや紫外線などによって作品に傷みが出ており、このままでは永続的な展示が難しい状況です。そのため、2017年の開館50周年を期に「原爆の図保存基金」を立ち上げました。かけがえのない作品を次世代に引き継ぐために、お力添えをお願いいたします。

新しい贈与論では毎月会員の投票により宛先を決定する共同贈与を行なっています。今月は「菌」をテーマに推薦を募集し、「国境なき医師団日本」「原爆の図保存基金」「南方熊楠記念館」の3候補があがり、渡辺健堂、宮本聡の推薦した原爆の図保存基金が最多票を得ました。

推薦文は以下の通りです。

「菌」を調べたところ、「菌」そのものは元来「きのこ」を指す、とあった。私たちが普段目にするきのこは、暗くてジメジメした場所で繁茂するイメージが強い。また、昨今のコロナウィルスなどで、ウィルスや細菌とも紛らわしい。「除菌」「抗菌」という言葉が使われて、ますます「菌」という言葉をめぐるイメージは混沌としていて捉え所がない。

菌は人類にとっては時に感染症を引き起こす厄介な敵であり、善とも悪とも言い難い。そんなことをこの8月に考えていた時に頭に浮かんだのは、戦争、原爆のことだった。この数年の世界的なウィルスの流行と久々の戦争。これを期に改めて戦争と原爆について考えながら寄付先を選定した。

丸木美術館
https://marukigallery.jp/

「原爆の図」とは、水墨画家の丸木位里(1901~95年)と妻で油彩画家の丸木俊(1912~2000年)が、1950年から82年までの間に共同制作した全15部からなる連作の屏風画だ。72年までに断続的に合計14の作品群が制作された。その後10年の時間を空けて82年に発表された「長崎」で完結した。

丸木美術館は、1967年に作品を誰でもいつでも見られるようにとの思いを込めて、夫妻が建てた美術館だ。周辺は、比企丘陵の緑が広がり、近くに流れる都幾川のせせらぎが聞こえるとても自然豊かな環境だ。

その丸木美術館が近年一部施設の老朽化で大規模な補修が必要となり、2017年に「原爆の図保存基金」が立ち上がった。今年末までに3億円を目標として資金を集めようということになり、6月末現在で286,267,356円まで集まってきている。

 もう一つ、我々がこだわりたいことがあった。

菌は日の当たらない場所で活動する。日の当たりにくい活動にこそ、新しい贈与論からのメッセージを届けるのにふさわしいのではないか。広島の陰に隠れて、注目されにくい長崎だ。

 丸木夫妻は72年から81年の間は、原爆の図から派生した様々な作品を描いていく。そして、82年、原爆の図の最終作品「長崎」を完成させて、この15連作に終止符を打った。「長崎」だけは、長崎原爆資料館に所蔵されている。長崎が最後なのだ。

 戦争と原爆という悲劇を決して忘れていけないし、様々な方法で人々にその悲惨さを伝えていくことは大切だ。その意味からも、この「原爆の図保存基金」に寄付をしたい。

我々はもう二度ときのこ雲を見たくない。

投票にあたり会員よりあがった理由の一部を抜粋し紹介いたします。

  • 小学生のときに、学校行事で丸木美術館の見学に行ったことを今でも覚えています。日本人として忘れてはいけない記憶だと思いますので、原爆の図保存基金に一票を投じます。(鈴木亜香里)

  • 原爆に関する資料は未来永劫残すべきだと考えているため(中村タカ)

  • 丸木美術館の事は初めて知りました。目標まで期間、金額共にあと少し、2017年から地道に活動されている関係者の皆様への敬意と賛同、励ましの意を表したく第1志望としました。(守屋まゆみ)

  • 推薦者さまと同じく「我々はもう二度ときのこ雲を見たくない」という思いから、原爆の図保存基金さまを応援したく、第一希望と致しました。(松木耕)

  • 過去の悲劇が繰り返されぬよう、原爆の図が残されることを願って(海野慧)

  • 目標額・期日が明確でこの寄付でも確かに助けになるだろうとおもいました。中学生の時に修学旅行で丸木美術館へ行った思い出&衝撃体験がふっとよみがえり、こちらを第一希望としました。(綿貫美紀)

  • 推薦人です。菌という手すりから、多様性社会に対話が膨らみ、最終的に平和への願いに行き着いたプロセスがとても楽しかったです。奇しくも本日、私は広島で平和を考えるイベントに参加していますが、8月に世界平和について考えるよい機会をいただきました。丸木美術館、ご興味ある方がいたらぜひ一緒に行きましょう。人類がきのこ雲を見ることはもうないことを願って。(宮本聡)

  • 反戦・反核を訴える存在は、いままさに起きている戦争・紛争の現場で血と汗を流している取り組みに比べると、どうしても喫緊ではないように感じられます。けれど存在することで時間軸も含めたより広い範囲にその想いを届けるのはこういう取り組みの役割で、それには「存在し続けること」に意味があると思った為、原爆の図保存基金に一票を投じたいと思います。原爆の日、というと、どうしても8/6が想起されます。なぜだか8/9も同じ重みでは思い出さないのです。そのなんとはなしの後ろめたさに「広島の陰に隠れて、注目されにくい長崎だ」の一言が刺さりました。(志賀響子)

  • 私は日本人の両親の元生まれ、日本で育った日本人である。国境で人間の境界線を引くことに強い共感はないが、とはいっても先人の歴史として原爆・戦争があった事は事実である。後世に語り伝えていく為にも、原爆の保存基金を推薦する。(河合将樹)

  • 二度と見たくない核の被害、その思いが作品という形で長く残していくには改修をふくめ思いもよらぬ努力が必要と改めて思います。思いやりを持ったひとの胞子が広がるイメージを持ち、投票します。(金子遥洵)

  • 日本では戦争や原爆、命について改めて考える8月です。ですが、最近SNSを賑わせた映画「バービー」と「オッペンハイマー」に関連するミーム騒動からは、海外や若い世代にあの原爆の雲の下で人々に何が起こっていたのかが伝わっていないという印象を受けます。丸木美術館に所蔵されている原爆の図は、その原爆の雲の下で起こったことを等身大に残している貴重な絵画だと思います。被爆体験を伝えてくれる方々はもう本当に少なくなってしまいましたが、作品は伝え続けることができます。次世代に歴史を伝えるということも大切な贈与だと思い、こちらに投票させていただきます。(浅井美絵)

  • ②のコメントにあった「新しい贈与論」がサポートするべきは日陰の存在、という趣旨はシンプルにそうだよねぇと思いました。さまざまな環境や条件のせいで繁殖しづらい?”善玉菌”を増やす努力やサポートをすることは、個人も社会も大切な気がします。(小澤啓一)

  • テーマとの接続は無視して8月なので選んだというのが正直なところです。いきた語り部がいなくなっている中、こう言ったアートなどで次の世代に生々しい悲惨さを保存し伝えることは重要だと思います。(中村祥眼)

  • 私の父は、東京大空襲を生き抜いた人ですが、いま85歳です。終戦当時は小学校低学年でした。一方東日本大震災の時、私の子どもは当時の父と同じくらい年齢でした。いまもう成人年齢になったわが子と話をしていると、当時の記憶を、85歳になる父がどれほど正しく記憶しているのだろう、そう考えるたびに、語り継ぐことの難しさと重要さを感じます。8月は、戦争を語らなくてはいけない月だと考えています。語り継ぐために、学ばなくてはいけないのだと思っています。8月です、その後押しをしてくれるであろうこちらに投票いたします。(金野潤子)

  • ピカは人が落とさにゃ落ちてこん。丸木スマさん(丸木位里さんのお母さま)の残した言葉です。原爆を落としたのも人間、被爆したのも人間。日本は被爆国ですが南京や真珠湾では加害者でもありました。戦争とは、被害者にも加害者にもなるということです。私の父方の祖父はシベリアから帰還しましたが、頑なに何も語りませんでした。母方の祖母は東京大空襲の話をしてくれました。祖父母たちはすでに皆亡くなり、私の子どもたちは戦争体験者の語る言葉を聞けません。丸木夫妻がたくさんの人の話を聞いて描いた原爆の図。戦争を生き抜いた人、そして亡くなった人の声を届け続けてきた原爆の図を、次の世代にぜひ残したいと思うのです。(溝口奈緒美)

  • 国境なき医師団は会計情報まで明確に公開されており、存在価値も非常に高いので迷ったが、今回は原爆の図保存基金に1票。今後、戦争の体験者が急激にいなくなる中、決して忘れてはいけないことを語り継ぐものとして、残って欲しいと思います。(高城晃一)

  • 当時のことを直接経験した語り手が少なくなっていく中、こういった作品がこれからも形として残り、多くの人の目に触れることができる状態であることに意味を感じました。(古川哲)

  • 8月というタイミングと、幼少期に広島で過ごしたパーソナルな理由から「原爆の図保存基金」に投票します。大規模な補修が必要とのことですが、工事に入られる前に丸木美術館に訪問してみたいと思います。(横山詩歩)

  • 戦争と夏の記憶は、田舎の祖父から受け継ぎました。そして私は誰に引き継ぐのかを思った時、一人では寄付をしないこの基金に、勇気ときっかけをこの場でもらった気がしました。今日の選択を、この暑い夏の思い出にします。そして丸木美術館に夏のうちに出向きたいと思います。(masa /タケウチマサノリ)

  • 「菌」の探究は目に見えないものの実感をどう組織するかという実践でありました。コロナ禍を経、菌からウイルスに実感の対象が代わりつある「人類の進歩と調和」感。ところが、こうやって教育されてきた「微細」への感覚がいまだ追いつかないものがあります。80年前に原子力爆弾が解放した「核種」の圧倒的な非道です。その瞬間と永続を、マクロとマイクロを受け止め損ねたまま生きる一人として「原爆の図保存基金」に今回、投じます(本間盛行)

  • どの推薦文も非常に示唆に富んだ面白いものでした。原爆の図保存基金は私が存じ上げていなかったこともあり、「菌は日の当たらない場所で活動する。日の当たりにくい活動にこそ、新しい贈与論からのメッセージを届けるのにふさわしいのではないか。」という文が心に刺さりました。近いうちに足を運んでみようと思います!ありがとうございました。(原拓海)

  • 夏・8月・戦争・原爆。「菌→きのこ雲」の発想はとんちかもしれないが、とんちのようなユーモアもまた良いなぁと。原体験として戦争を伝えられる人がいなくなっていく今、一目で伝わる「絵画」の素晴らしさを後世残せる一助になれば幸せな事だなぁ、と思いました。(熊谷友幸)

  • 原爆の図保存基金を第一志望にいたします。寄合の最後で意見をいただいた、「目に見えないものへの責任をどのように果たすのか」という視点にグッときました。その当時を知る人が高齢になり、体験した人がいない世界に突入する中で、その凄惨さから感情までのすべてを、体験できなかった者へ繋ぐことは、資本主義では賄えない、寄付の形で私たちがやるべきことだという気持ちになりました。また、菌→きのこ、菌→日の当たらない→長崎、8月→原爆、という推薦人のイマジネーションも素敵だなと感じ、全体を通して「今、この贈与論のスタイルで、寄付をすること」の必然性を感じました。(松本慕美)

  • 推薦文がとても響きました。あと1人が反対したら戦争にならなかったのに、とならないよう、残したいものを守る一助になれればと思いました。また、贈与と季節を紐づけて考えたことがほぼなかったので、寄付と季節性、夏と死のにおいという話題が興味深かったです。(立花香澄)

  • 原爆の図保存基金は、「菌は日の当たらない場所で活動する。日の当たりにくい活動にこそ、新しい贈与論からのメッセージを届けるのにふさわしいのではないか」。という一文に強いメッセージを感じました。また原爆、戦争の話題は注目されやすい分野ではあるものの、こうした地道な活動は継続にあたり長きにわたる人の協力が欠かせないと思いました。(東詩歩)

 新しい贈与論は今後も共同贈与という形の寄付を毎月続けて参ります。ご興味のある方はぜひご参加ください。



運営

法人名     一般社団法人新しい贈与論
代表理事    桂大介
設立      2019年8月1日
ウェブサイト  https://theory.gift
連絡先     info@theory.gift
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 「新しい贈与論」は寄付や贈与についてみなで学び、実践してゆくコミュニティです。オンラインの交流をベースに、時折イベントや勉強会を開催します。個人主義や交換経済が蔓延り、人間や人間的関係がますます痩せ細ってゆく現代において、今一度、贈与という観点から社会について考え行動する場をつくりたいと思います。