NPO法人心に響く文集・編集局へ寄付を行ないました

共同贈与コミュニティ新しい贈与論は、NPO法人心に響く文集・編集局に対し65万円の寄付を行ないました。

新しい贈与論では毎月会員の投票により宛先を決定する共同贈与を行なっています。2022年12月は「待つ」をテーマに推薦を募集し、「NPO法人心に響く文集・編集局」「公益財団法人日本骨髄バンク」「NPO法人日本移植者協議会」の3候補があがり、中村タカさん、高野冬馬さんの推薦したNPO法人心に響く文集・編集局が最多票を得ました。

推薦文は以下の通りです。

推薦人の一人が、「待つとは時間軸が必要な、一時点では完結しない行為」と話してくれました。

今月のテーマである「待つ」は、必然的に時間がかかります。そしてそれは、待つ人が来たる何らかの可能性を信じ続けている証拠でもあると思うのです。

今回推薦するNPO法人心に響く文集・編集局は、長らくの間、そんな「待つ」という行為を続けてきた団体です。

2022年、社会福祉を特徴づけることを一つ挙げるとすれば、アウトリーチでしょう。行政や病院をはじめ既存の福祉では、一歩踏み出す勇気や気力がある方、症状が出た方にしか、必要な支援を届けることができていませんでした。
しかし近年では潜在的に困難を抱えている方、困難を抱えているが支援につながっていない方に、支援者側からアプローチする「アウトリーチ」という手法が積極的に取られるようになってきました。

しかしどんなに手を伸ばしても、届かない人や場所、時間は必ず生み出されます。
支援が届く前に限界が訪れることも。

NPO法人心に響く文集・編集局は、2021年には東尋坊で45人を保護し、この数字は前年度に比べて36%も自殺企図者との遭遇が増えたことを意味します。無論、2021年はコロナ禍が2年目を迎えた年です。

では、代表の茂さんをはじめこの団体の人々は、ただひたすらに自殺を止めているだけなのでしょうか。私自身はそれ自体にも意味があると思っていますが、ここで考えたいのは、団体の方々が「何を待っているのか」ということです。

茂さんは2010年のインタビューで、こんなことを話しています。

.”..この様に多くの自殺企図者から話を聞いて分かったことは、全員が「まだ、死にたくない・・」「誰か、助けて欲しい」「出来るものなら、もう一度人生をやり直したい」と叫んでいたのです。[...]彼らは常に、「支えてくれる人」「頼れる人」「逃げ場所」を求めています。しかし、それが叶わないために天国を目指してしまうのです。[...]最終的には、「健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会」の実現に向けて今後もこの活動を続けていきたいと思っています。”

世の中の課題は、常に現在進行形で生み出されていくオープンエンドな営みと言っても過言ではありません。どれだけ細分化されたとしても、課題と認識される前の社会の欠陥、自分だけにとっての悲しみなど、「逃げ場所」が用意されない人々は複合的に生まれていきます。

2021年8月に東尋坊にきて声をかけた、「逃げ場所」がない方々の声(自殺企図の動機)を抜粋します。

①関東在住の30代男性:職場の仲間内からのパワハラを受けそれを苦に
②福井県内の若年層女性:かねてからのうつ病を苦に
③中京の20代女性:長年の同棲生活にピリオドを付けるために
④関東在住の40代男性:500万円の借金を苦に
⑤関西在住の20代女性:転職を希望しているのに両親に反対され転職出来ないため
⑥甲信越在住の30代男性:サザエさんのマスオさん的生活に疲れて
⑦九州在住の20代男性:上司との折り合いが悪くなり
⑧九州在住の20代男性:就活したが働き口が見付からないため

茂さんをはじめ団体の方が待っているのは、自殺を企図している人であるのに加え、その人々が抱えている痛みであり、同時に、「まだ、死にたくない」という意思と願いです。

それは翻って、「健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会」なのかもしれません。
団体は自殺を止めるだけでなく、その後の生活の自立まで伴走支援をしています。

この活動に寄付することで、何か社会がよくなるかはわかりません。ただこの活動は、「社会より前」の課題に困難を抱える人々を待つ場所として、そしてその人々の願いを信じ続ける、「待つ」という営みとして、必要な活動であると思うのです。

投票にあたり会員よりあがった理由の一部を抜粋し紹介いたします。

  • 福井の東尋坊といえば自殺の名所として知られているわけですが、この団体が長年活動を続けてきたことにより、この地が「本当は死にたくない人」が最後に駆けつける拠り所になって来ているようにも感じています。孤立が大きな社会問題となっている今だからこそ、この団体を応援する意義があるのではないでしょうか。(宮本聡)

  • 「社会的な理由」で死に追いやられることがない世の中を夢見ます。戦争による死や生活苦による自死がない世界。今回はどの団体も「生きること」に直結していましたが、「心に響く文集・編集局」に投票します。HPのストレートさや、この活動をはじめてから東尋坊での自殺者が1/3に減ったという事実に信頼感を覚えたからです。東尋坊の「美しい」と一言ではくくれない厳しい風景を思い出しました。(本間盛行)

  • 個人的にだが、今年はとくに自死の話を聞いた。生きたいのに生きられない。なんてつらいんだ。でもこうして、当事者じゃなくて第三者として、ぎりぎりの場所で話を聞いてくれる人がいる。そんな茂さんに、頭が下がる。ほんとうは、東尋坊に観光以外で行く人の数を、私たちが減らさないといけないのだけれど。ただ、いつ自分も崖を目指すことになるかもしれないわけで。それでも、それでも、死んだら終わりなのだ。(藤岡達也)

  • 非常に難しい選択でしたが、記憶の中にある東尋坊の景色の中に、今この瞬間にも待っている人がいるということに心を動かされました。今回の贈与が、自殺企図者の「誰か、助けて欲しい」という叫びを、知ってもらうきっかけとなればと願います。(吉見新)

  • 6-7年前ですが、福井で仕事の際に知人にこちらのお店に連れて行っていただいたことがあります。東尋坊は美しい絶景の観光地でもあり、荒れる日本海と断崖絶壁は恐怖も感じさせる場所でした。そんな場所に、行き先のない悩める人たちが全国から来て吸い寄せられていくのも分かると思いましたが、まだ迷いのある、誰かが止めてくれることを待っている人に声をかけてくれるパトロール隊がいてくれることに心救われました。声をかけて思いとどまらせるだけでなく、その後いじめを受けている職場まで一緒に乗り込んでいった話や、うまくいかない家庭へのサポートまでする話も伺いました。お店でいただいたお茶とお餅は温かく、追い詰められてここまで来た人たちがたどり着く場所がこのお店であって欲しいと心から願ったことを思い出します。この活動を続けてくださっていることへの感謝を込めて、一票を投じます。(浅井美絵)

  • 推薦文に「この活動に寄付することで、何か社会がよくなるかはわかりません」とありました。私もそう思います。この活動も声をかけたからといって何か見返りが返ってくる、そういうものではないと思います。
    そういう期待の外側にあるような贈与があってもいいなと思いましたし、私も彼らの活動またその活動によって救われる人を、「こうあって欲しい」という期待なしにケアしているというメッセージを送りたいと思い、第一希望とさせていただきました。
    寄付という活動自体の意味にも関わってくるとは思うのですが、待つという行為には何かしらの期待をはらんでいるものの、わたしはこの寄付を通じて、「こうして欲しい」とか「こうなって欲しい」とかいう期待せずにただただ何かが起きるのを待ってみたいです。(古川哲)

  • 北陸に住んでたことがあるので東尋坊での活動は縁を感じました。私も苦しい時期にじっと待つような経験をしましたし、今思うとたくさんの方に手を差し伸べてもらいました。NPO法人心に響く文集・編集局さんの活動を応援したいと思いました。(大政勇作)

  • 本来であれば自然の素晴らしさや豊かさを体感できる場所が、誰かが命を捨てる場所になってしまっていること、人間の想像力の残酷さに胸が痛みます。
    NPO法人心に響く文集・編集局は、ある特定の場所で起こってしまう自死を止める最後の砦としての活動。「自殺防止」と言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが、彼らにとって、自殺志願者がその場所に来ることを断ち切る術はなく、そのひとが現れるまで「待つ」ことしかできない。いつか誰も待たなくていい日が来るまで、活動を継続し続けていてほしいという思いを込めて。(姜花瑛)

  • 活動の中身のみならず、団体名の「心に響く文集・編集局」が素敵。刺さりました。自殺を止めることだけではない、きっと大事にしている部分が表れた名前なんだなと思いました。(掛川悠矢)

  • いつ来るかわからない人をパトロールをして待ち続ける活動。待っていること自体が自殺を減らすことにつながっているのだと思います。推薦文にある「健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会」、その実現を私も一緒に待ちたいと思います。(鈴木亜香里)

  • 「自殺の名所」と言われるほど有名になってしまった身投げが頻繁に行われる東尋坊を、持ち回りでパトロールを実施し怪しい動きをする人物がいれば声をかけ話を聞き、適切な支援を施すという活動を長らく続けていることがまず素晴らしいと感じています。
    また、そういった極端な選択を企てる人々の事例を書籍にまとめ、東尋坊以外で困窮している方々にも極端な選択を避ける道を指し示す(いわばレバレッジを効かせた)活動も素晴らしいと思っています。(中村祥眼)

  • 逃げ場がないと感じる状況に置かれることには自分自身にも覚えがあります。この団体の活動である自殺抑止にフォーカスすることはちょっと特殊に思えましたが、周りが見えなくなってしまう状況に陥る怖さを思い出すと、ごく身近な価値を感じられました。形式的な活動では成り立たないと思える活動を、何か応援できればと思います。

    (中村雅之)

 新しい贈与論は今後も共同贈与という形の寄付を毎月続けて参ります。現在は新規会員も募集中ですので、ご興味ある方はトップページよりご確認ください。



運営

法人名     一般社団法人新しい贈与論
代表理事    桂大介
設立      2019年8月1日
ウェブサイト  https://theory.gift
連絡先     info@theory.gift
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 「新しい贈与論」は寄付や贈与についてみなで学び、実践してゆくコミュニティです。オンラインの交流をベースに、時折イベントや勉強会を開催します。個人主義や交換経済が蔓延り、人間や人間的関係がますます痩せ細ってゆく現代において、今一度、贈与という観点から社会について考え行動する場をつくりたいと思います。