このブログでは共同贈与コミュニティ「新しい贈与論」から、
コミュニティ内で交わされた対話の断片をお伝えします。
2月14日。バレンタインデー。毎年この日になると、街中がそわそわし、それぞれの甘酸っぱい思い出に胸を馳せる。チョコを贈り合う形で日本では習慣となったバレンタインの歴史は遡ること西暦270年2月14日。ローマ皇帝クラウディウスが、遠征を目指す兵士との結婚を禁じたことに対して反対した、バレンタイン(ウァレンティノス)司祭が処刑された日と、この季節に木々が芽吹き小鳥が発情することとが結合した風習といわれる。
初めは親子が愛の教訓と感謝を書き記したカードを交換する習慣だったようだが、20世紀になって、男女が愛を告白して贈り物をしたり、とくに女性が男性に愛を告白する唯一の日とされるようになった。
日本では1932年に神戸のチョコレートショップ「モロゾフ」の創業者が「欧米では2月14日に愛する人に贈りものをする」という習慣を米国人の友人から聞き、日本でも広めたいと考えた。同年にモロゾフはバレンタインにチョコレートを贈るというスタイルを紹介したが発展せず、一方関東で1959年、東京の洋菓子商「メリーチョコレートカムパニー」が、ハート型のチョコレートに鉄筆でTOとFROMを描き、贈り手と相手の名前を入れるサインチョコレートを発売したところ、斬新なアイディアが注目を集め、女性から男性にチョコレートを行うスタイルが定着し、今日まで継続している。
1959年に考案されたハート型のチョコレートが日本での普及のきっかけに
コミュニティのメンバーにバレンタインの思い出を聞くと、チョコレート(プレゼント)を「贈る側」と「受け取る側」で様々な声があることがわかった。
友達と一緒にチョコレートをつくって好きな男子に一緒にあげにいった、そのイベントが楽しかった&相手に気持ちを伝えるトライができてよかった
職場の課で女性が男性にあげるということをしばらくしていて、ホワイトデーのお返しももらい、いつもにないコミュニケーションも生まれて面白かった
思春期にチョコをもらうことができなかった
アメリカに住んでいた時は、日本のクリスマスイブのように「男性が彼女のためにめちゃくちゃ準備しなきゃいけない日なので大変」と現地の男性の友人が言ってた
昨今では本命チョコに始まり、義理チョコ・友チョコ・職場での付き合いのためのチョコなど、周囲に気を使ってチョコを渡す機会も増えており、バレンタインに対して否定的な声を聞くことも少なく無い。一方で、大切な人や普段だとなかなか感謝を伝えられない人へ想いを伝えるために、バレンタインデーにチョコをあげている人からは贈るよろこびが感じられるとの意見も出た。
ゴディバジャパンが日経新聞に2018年2月1日に掲載した
「義理チョコをやめよう」と言う広告は、大きな話題にもなった
バレンタインという文化に対しては賛成か、反対という問いに対しても、多様な意見があがった。
直接的な気持ちを目に見える形で表現する文化があまりない日本においては、バレンタインは良いきっかけ
一方で本来自発的でよかったものが義務的になって困る人もたくさんいることを世間の論調から感じる
バレンタインは一つのコミュニケーションのきっかけとなる
バレンタインの強要は違うが、好きを表明することは周囲に迷惑をかけないの程度の範囲で、妨げなくてもよいのでは
バレンタンデーという文化をより抽象的に考えてみると、贈る人が受け取る人への感謝や愛を伝える機会と捉えることもできるかもしれない。その点で父の日や母の日、お年玉などその他の贈る文化と本質的には同じものと言うこともできうるだろう。一方で、バレンタインが持つ特殊性もある。それは本命チョコ・義理チョコ・友チョコなど様々な関係性の中で気持ちを伝え合う手段の総称であることであり、そのために様々な関係性の中でチョコレートを贈り合わなければならない、と言うある種の強制力や同調圧力がかかりうる危険性がある。バレンタインが内包する関係の多様性を楽しみつつ、チョコレートを贈り合うと言うのはバランス感覚が必要なのかもしれない。
世界に目を向けてみると、「大切な人に感謝や愛を伝える」という根底の思想は同じでありながらも、バレンタインの様式は様々である。欧米やアジア諸国では男性が女性にバラを、フィンランドでは「友達の日」としてチューリップを友達に贈る。イギリスでは想いを寄せる人にひそかに想いを伝える日として、当日はメッセージカードを贈るけれども、差し出し人の名前は書かず、カードを受け取った方から返事をしてもらう。筆者個人としてはイギリスの事例などは遊び心があって、かつ忘れられない思い出になると言う意味でお気に入りである。
日本でもチョコを贈り合うバレンタインの文化が根付いてから50年以上が経過している。時代の変化と共に、バレンタインに対する懐疑的な意見も生まれて来ているが、改めて今回バレンタインについてじっくり考えると、想いを伝えることのできる年に一度の貴重な機会とも捉えられた。この文化を続けていくためにも、今から日本にバレンタインの文化をもう一度流行らせるとしたらどんなバレンタインにするかを考えてみるのも面白いだろう。
AUTHOR
堤春乃
クラウドファンディングサービスを運営するREADYFORに勤務中。挑戦する人を支える共感をベースとしたお金の流れをつくりたい。関心領域はサステナビリティ 、SDGsなど。幼少期から続けている合唱ではソプラノを歌っている。食べることがとにかく好き。