#004 カタログ化するふるさと

このブログでは共同贈与コミュニティ「新しい贈与論」から、
コミュニティ内で交わされた対話の断片をお伝えします。

ー「ふるさと納税」論議は、平成19年5月の総務大臣の問題提起から始まった。多くの国民が、地方のふるさとで生まれ、教育を受け、育ち、進学や就職を機に都会に出て、そこで納税する。その結果、都会の地方団体は税収を得るが、彼らを育んだ「ふるさと」の地方団体には税収はない。そこで、今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか、という問題提起である。ー(総務省 平成19年ふるさと納税研究会)

 ふるさと納税は上のような問題提起に端を発し、2008年5月より制度が開始された。その根幹の理念としては次の”3つの大きな意義”をあげている。

  • 第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。 それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。

  • 第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。 それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。

  • 第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。 それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。(総務省ふるさと納税ポータルサイト)

 ふるさと納税の制度開始からおよそ10年が経ち、寄付金額も下のように年々上昇傾向にある。

(総務省 令和元年度ふるさと納税に関する現況調査について より)

(総務省 令和元年度ふるさと納税に関する現況調査について より)

 しかしこの盛り上がりとともに返礼品の過激な競争なども起こり、2019年6月には制度一部改正にまで至っている。主な内容は以下の通り。

①寄付に対する返礼割合は3割以下
②返礼品は地元の産品に限る
③総務大臣の指定を受けた自治体のみが控除対象となる

 控除や返礼ばかりに気が向きがちなふるさと納税であるが、今一度“地域への寄付“と改めて捉え直してみたい。

  コミュニティメンバーにふるさと納税をしたことがあるかないか、を聞いたところ、およそ6割強のメンバーが「したことがある」、4割弱のメンバーが「したことがない」とのことだった。

 制度に懐疑的な意見として

  • 税金をどうこうというより買い物というイメージの方が強いのであえてそこで買おうとしたことがない

  • 「返礼品」でしか競争できないとなると、特産のある地域とない地域で格差が発生しやすく、フェアではないし、非効率かなぁと感じます

  • そもそも納税の一部を返礼品として返すという行為がバラマキであり、自分が住むエリアのインフラや教育、福祉などに使われず他エリアに移転していくのは非常に良くない

  • そんなに物欲も節税意識も高くないので、個人的なメリットより「めんどくさい」が勝ります。事務処理苦手マン

などの意見があった。事務処理が煩雑という指摘は、確かにそうだと感じた。節税や返礼品、寄付に関心がある方は制度を利用するだろうが、国民の大半はそれほど興味がないだろうと思う。その方達が少しだけ興味を持ったところで最初に挫折するのが事務手続き関連であろう。

 調べたところ、確定申告の必要のない方はワンストップ特例制度というものが利用できるらしい。税、年金、社会保険等の電子化が今後さらに進めば、ふるさと納税のハードルも下がり、二の足を踏んでいた人たちも参加するようになっていくのではないだろうか。

 次に好意的な意見を紹介する。

  • 収めた税の使いみちを指定できるという点は素晴らしい

  • シティズンシップ教育の必要性や意義は感じます。

  • 対象に限りますが地方交付税の補填も含め、ふるさとの納税によって税収の適切な分配には近づいてるんじゃないかと思っています。

  • その土地を詳細に知ったり関心を持ったりするキッカケになったりした気がします

などといった、3つの意義の1つ目の効果、また不均衡の解消につながっているのではとの声も上がった。

  私としても納税先を自分の意思で決められることは非常によい機会であると感じている。近年SNSを中心に「若者も選挙に行こう!」という流れが形成されているのを感じるが、ふるさと納税に関しても同様に、民主主義社会への参加という面から盛り上がっていけたらと思う。中央集権的に税が吸い取られ知らぬ所で使途が決められるより、「〇〇市、頑張ってね」といった形で、個々人の意思に基づいてフランクに寄付が行われる社会になったら面白いだろう。

 今回の議論の中では、いかに意義を伝えていけるかと言った議論も見られた。その一工夫として「"ローカルエディター"によって地域の生活を発信し、関心を起こさせるのはどうか」という案も出た。ふるさと納税の制度と並行して別事業でこのような取り組みが行われると、よい循環が生まれるのではないか。発信によって情報として地域を知り、返礼品によってモノとしての実体を感じてなお関心が深まっていく、といったように。議論全体として、制度そのものを否定するのではなくどうすれば制度・地方自治体に関心が集まるだろうというかという議論が起こっていたように思う。

 ふるさと納税制度がもたらす効果について、私が最も重要なのは「関心を刺激する」ことであると思う。はじめのきっかけが節税であっても、もちろんいい。返礼品を選ぶときにいろいろな自治体があることを知り、その特色を知り、遠いのか近いのかが少し気になってくる。そういった小さな関心が各人の中に蓄積されていけば、どこかの町の財政破綻や、どこかの村の大災害が他人事では無くなってくるかもしれない。

 都市への一極集中化がさらに進み、そこにしか関心が寄せられない国になってしまえば、個性的な地方は人知れず衰退し、多様性も冗長性も何もない味気ない国になってしまう。そうした無関心への流れを変える一方策としても、ふるさと納税は機能していくのではないだろうか。


AUTHOR

Soma OKAMURA

岡村壮真

 大学卒業後、1年間建設コンサルタント会社にて勤務。その後退職し、大学院に進学。研究室において公園の設計やコミュニティに関する研究を行う。音楽と料理をこよなく愛するストリートダンサー。趣味はカレー作りと小屋作り。特技は人の話をよく聞くこと。


Soma Okamura

大学卒業後、1年間建設コンサルタント会社にて勤務。その後退職し、大学院に進学。研究室において公園の設計やコミュニティに関する研究を行う。音楽と料理をこよなく愛するストリートダンサー。趣味はカレー作りと小屋作り。特技は人の話をよく聞くこと。