このブログでは共同贈与コミュニティ「新しい贈与論」から、
コミュニティ内で交わされた対話の断片をお伝えします。
Author: 桂大介
宝くじと贈与は一見無関係に見えるかもしれない。しかし、宝くじを購入する多くの人は宝くじの期待値が100%に届かないどころか相当に低いことを知っており、つまり宝くじの購入は財産の喪失を必然的に抱えている。実のところ還元率や手数料は下図のようになっており、実に38.1%が地方自治体の収入、言い方を変えれば、地方自治体への寄付となっている。この額は全国で約3000億円にも上り、たとえば東京都は平成30年に474億円(内20億円は当選金の失効益!)の収入を得ている。
上の図に見られる還元率47%/手数料14%/控除率39%というバランスは、見方を変えればふるさと納税に似ている。返礼上限が設定された現在、ふるさと納税は還元率30%/手数料10%/控除率60%といったところだろう。過剰な税制優遇が実態を覆い隠しているものの、その仕組み自体において、宝くじとふるさと納税は大差がない。宝くじを規定する法律である当せん金付証票法が第一条に「地方財政資金の調達に資することを目的とする」と定めているように、これは成り立ちからして税収のために作られた仕組みであり、宝くじは「当たれば儲かる、外れれば寄付になる」という娯楽付き納税システムの一種といえるだろう。
コミュニティ内で「宝くじの収益が地方自治体への寄付として使われていることを意識されたことがありますか?」と聞いてみたところ、以下のような声があがった。
地方自治体への寄付という意識はなかった。宝くじ号とついた車などは見かけるので日赤などへはイメージありました。
子供のころ通ってた陶芸教室に併設してた登り窯に、宝くじの助成という看板がかかってました
全然意識したことなかった
知識としては知っていました
意識していませんでした…。この事実をもっと広めれば、買う人増えそうだなと思います。
財の再分配として効率が良いのかはよくわからないのですが、そのあたりも啓蒙してくれれば意識は変わりそう
大半の人は知らないか、知っていてもそういった意識で宝くじを購入していなかった。また啓蒙することで購入が増えるだろうという意見も出た。同様の考えは自治体側にもあるのか、寄付の側面を押し出した宝くじはしばしば発売されており、今夏は東京五輪に向けた東京2020大会協賛くじが発売されている。
日赤や登り窯の件は前掲した円グラフで「社会貢献広報費」となっているもので、主に一般財団法人日本宝くじ協会を通じて日赤、公園財団、交通安全協会、消防協会などさまざまな団体に助成金として流れている。この助成金は宝くじのイメージアップを図るための広報支援と引き換えに渡されるもので、宝くじの利益が公益に資することを広く知らしめるためのものだが、本来の地方財政への貢献が見えずにこちらばかりが広まっているというのが実情のようである。
宝くじは現在どれくらい買われているのか。コミュニティでは現在自分が購入しているという人はほぼゼロであり、多くは父母、祖父母が買っていたという話にとどまっていた。昨今インターネット上では宝くじが情弱ビジネス、愚者の税金と揶揄されることもあり、実際にデータを見ても宝くじの売上は単調減少している。
しかしそれでも総額8000億円弱、地方自治体への収入3000億円というのは凄まじい額である。日本の個人寄付の総額が2000億円〜5000億円と言われているから、それに匹敵する寄付額を生み出しているといえる。
宝くじの購入にあたり、よく耳にする動機は「夢を買っている」「抽選を待つ時間が楽しい」という消費的態度にとどまっているが、コミュニティ内では寄付の新たな一手段として肯定的に捉える意見もあった。
お金の集めやすい手法を使い、それを原資に別の目的に利用するという役割もテクニックとしては必要
宝くじの高揚感を味わいつつ、そのお金が一部寄付に回るというのは一石二鳥でよいモデル
「寄付とか機会があったらしてみてもいいんだけどな」と思っている中〜高額所得者のはじめの一歩として、ハードルはかなり低い
昨今続く天災やふるさと納税の流れからか、納税とは異なった形での自治体への贈与も見直されている。たとえば今「首里城再建支援宝くじ」が販売されたらどうだろうか。当たれば儲けもの、外れたら寄付。宝くじは人心にフィットした贈与の仕組みなのかもしれない。